手の届く未来!?移動革命MaaSの国内動向
我々の生活における必需品のひとつが、車や電車などの公共交通機関といった交通手段でしょう。近年は、ライドシェアや海外のUberといった配車サービスをはじめ、コネクテッドカーや自動運転車が登場するなど、大きな転換期を迎えそうです。
そんな中、それらの交通手段を最適化する「MaaS」が注目を集めており、各企業が取り組みをはじめている状態です。2020年3月、ANAは、MaaSへの取り組みとして、航空便の運航情報と鉄道やバスなどの地上交通を同時に案内する「空港アクセスナビ」を発表しました。また、2020年7月、東京メトロは、東京メトロアプリをリニューアルし、マルチモーダルな経路検索機能を実装すると発表しています。今回は、話題のMaaSがどのようなものなのか、サービス事例なども交えて日本国内の動向を紹介します。
そもそも「MaaS」とはなんなのか
最初に、MaaSの概要とメリットなどについて説明します。
MaaSとは
「MaaS」とは、英語の「Mobility as a Service」の略語で、直訳すると「サービスによる移動」という意味になります。人は、それぞれ住んでいる地域や今いる場所や目的地、シチュエーションや好みなどによって、最適な移動手段が異なります。MaaSはこれらを個人レベルまでブレークダウンすることで、最大限に利便性や効率を高め、満足度を向上する取り組みにです。
たとえば、自家用車があれば、いつでも自由に使える反面、自動車ローンや駐車場代、ガソリン代、保険などの費用が発生します。しかし、MaaSによって電車やバス、タクシーという他の交通手段を効率化して、安く自由に利用できるようになれば、車を所有する必要がなくなり、こうした費用からも解放されるわけです。現状、MaaSではバスや電車、タクシーといった交通手段と決済方法などがパッケージ化されたサービスが一般的となっています。
MaaSのメリット
MaaSのメリットとしてまず挙げられるのが、前述した車の所有や維持費の負担から解放される点です。車よりも速く、効率的に移動できるようになれば、時間の有効活用にもつながります。さらに、通勤、通学の最適化などはもちろん、排気ガスによる環境汚染や交通事故の減少といったように、MaaSは個人だけでなく社会的なメリットにつながる点も多々あるのです。
MaaSの実例
次に、MaaSの実例を、具体的なサービスも交えて紹介します。
カーシェアリング
最初に紹介するサービスは「カーシェアリング」です。近年、日本でも急速に利用者が拡大しています。「カーシェアリング」とは、簡単に言えば「ユーザー間で車をシェアするサービス」です。
サービスを提供する企業が用意した自動車をユーザー間でシェアするパターン(BtoC)と、個人が所有する車をユーザー間でシェアするパターン(CtoC)の2種類があります。
カーシェアリングのメリットは、必要なときだけ車を使うことができる点です。
この他にも、
- ・24時間利用できる
- ・予約後にすぐクルマが使える
- ・ガソリン代や保険料が不要
- ・さまざまな車種が利用できる
- ・日本全国で利用可能
といったたくさんのメリットがあります。また、CtoCのカーシェアリングでは、車の持ち主が使っていない時間に車をシェアすることで売上が発生するため、車のアイドルタイムを減らし、効率的に利用できる点も大きなメリットと言えるでしょう。
日本の代表的なカーシェアリングサービスは、以下のようなものが挙げられます。
バイクシェアリング(シェアサイクル、レンタサイクル)
バイクシェアリングとは、自転車を一定時間レンタルできるサービスです。電車やバスといった公共交通機関を利用する場合、最寄りの駅やバス停から目的地まで少し距離があるケースもあると思います。そんなとき、バイクシェアを活用して移動すれば、非常に便利です。
日本のバイクシェアサービスは、基本的に駐輪場に停められている自転車をアプリで事前に予約して、ピックアップ時に起動して使うといったケースがほとんどです。ただし、自転車を現地で乗り捨てることはできず、駐輪場に停める必要があるので注意が必要です。料金は時間制のサービスが基本ですが、中には月額制のものもあります。
代表的なバイクシェアサービスは、以下の通りです。
なお、海外のUberやLimeといったサービスでは、街中に停めてある電動キックボードにアプリひとつで自由に乗り、好きな場所で乗り捨てることも可能です。そのため、ちょっとした移動に気軽に利用されており、既にMaaSが人々の生活に根付いている感があります。
配車サービス
配車サービスは、MaaSの代表的サービスと言えるでしょう。海外のUberやGrabはいわゆる個人でのタクシー業、いわば日本の「白タク」と呼ばれるサービスで、一般の方が自分の車を使ってタクシーのようなビジネスが行える仕組みです。アプリ上で行き先を指定すると自動で車がマッチングされ、行き先までの車の大きさやグレードに合わせ値段が表示されるため、好きな車種や到着までの所要時間などの条件を選んで配車してもらうことが可能です。料金もアプリ内で決済し、チップの値段も選べます。さらに、車から降りた後には、ユーザーがドライバーの評価を行えますので、ドライバーのマナーが担保されるというメリットもあるのです。
なお、日本でもUberは使えますが(日本ではGrabは使えません)、配車されるのはタクシーかハイヤーになります。ただし、支払いはアプリ上で行えます。白タク行為が禁止されている日本では、Uberのような配車サービスは黒船的な存在であったため、タクシー業界においてどのような形で受け入れられるのか一時注目されましたが、現在はこうした形で収束しているようです。また、この流れを受け、タクシー業界もタクシーの配車アプリをスタートました。スマホのGPS機能を用いて配車できるため、これまでのようにタクシー会社に電話して、ピックアップの位置を説明する手間は省けて便利になりましたが、価格等は従前どおりです。
主な、配車サービスとしては、以下のようなものが挙げられます。
配車サービス
タクシー配車サービス
- ・JapanTaxi
- ・MOV
- ・DiDi(ディディ)
- ・S.RIDE
宅配サービス
UberEatsなどの宅配サービスも、MaaSの一種と言えるでしょう。アプリから食事の宅配をお願いすることで、普段は出前を行っていないレストランやカフェなどから料理を届けてもらい、自宅で楽しめます。自宅にいながらお気に入りのレストランのグルメや、話題のスイーツなどが食べられるだけでなく、移動時間を他のことに利用できる点も大きなメリットです。
主な宅配サービスは、以下の通りです。
日本における今後の展望
最後に、日本でのMaaSの展望について説明します。
日本企業のMaaSへの取り組み
日本でも大手企業がMaaSへの取り組みがはじまっています。
ANA「空港アクセスナビ」
皆さんにもっとも身近なMaaSの例が、ANAの「空港アクセスナビ」と言えるでしょう。これは、各種交通機関と連携し、「出発地から搭乗まで」と「降機から最終目的地まで」の交通手段を一気に提供するサービスです。経路検索に、航空便の運行情報とターミナルや搭乗口、保安検査場の情報を統合し、スマートフォンのアプリやウェブサイトで検索できるようになりました。このサービスを利用すれば、予約便の情報を自動反映し、出発地と空港到着時間を設定するだけで最適なルート検索が簡単にできます。
2020年4月1日からは京成スカイライナーとも連携し、上野と成田空港を結ぶ列車の予約や決済もできるようになりました。今後、他の交通機関とのシームレスな連携がさらに進めば、ますます利便性が向上していくことでしょう。
TOYOTA:「Woven City(ウーブン・シティ)」
CES2020において、トヨタ自動車はコネクティッド・シティ「Woven City」を静岡県に建設することを発表しました。2020年末に閉鎖予定の静岡県の工場の跡地を活用し、MaaSはもちろん、自動運転やパーソナルモビリティ、ロボット、スマートホーム、人工知能などの先端技術の試験導入と実証が目的です。日本で自動運転の技術が進みづらい原因のひとつに、道路交通法による法規制があります。そのため、公道における自動運転の実験が難しく、狭い私有地の中だけの実証実験に留まっていたのが現状でした。
しかし、Woven Cityは、ゼロから街を作り上げる取り組みであり、街を通る道を用途別に3種類設計するなどの工夫がなされます。さらに実際に2,000人ほどの人(トヨタの社員)が住む広大な街になる予定で、より公道に近い検証が可能になるでしょう。
小田急電鉄:EMot(エモット)
東京の私鉄である小田急電鉄は、MaaSの実証実験などを積極的に行っていますが、2019年10月に「 EMot」というMaaSアプリをリリースしました。現在、EMotで展開されているサービスは、
- ・電子チケットの発券
- ・タクシー、シェアサイクルも組み合わせた複合経路検索
- ・検索結果から特急、カーシェアなどの手配
となっています。これらはクレジットカードで決済も可能です。
さらに、郊外型MaaSとして、一定額以上買い物をしたときに無料の往復バスチケットを発行したり、生活サービス型Maasとして、最寄り駅やターミナル駅で利用できる飲食店定額チケット発行などが提供されています。現在は特定の駅で利用可能なサービスですが、こうしたMaaSと連携したサービスが、より広範囲で活用できるようになり、充実すれば、ますます生活の利便性と快適性が向上することになるでしょう。
自動運転によるメリット
現在、全世界で実証実験が行われている自動運転ですが、まずは自家用車に先駆け、自動運転のバスやタクシーがサービス開始されると言われています。しかし、これが実現されるだけでも、高齢化が進む日本では非常に大きなメリットがあると予想されます。
たとえば、高齢者が外出する際、MaaSアプリで経路を選択して予約すれば、家にタクシーが迎えに来て、駅まで行き、そこから電車に乗って、到着した駅からまたタクシーに乗って目的に到着するといったことをシームレスに行うことが可能です。こうして高齢者の外出の機会を増やすことで、活動量が増え、身体能力の衰えの防止につながり、医療費の削減に貢献すると期待されています。
また、地方の過疎地においては、公共交通機関がほとんどない地域もありますが、自動運転のバスやタクシーを効率よく運用できるようになれば、安価に交通手段を確保できるため、地域活性化に大いに役立つでしょう。地方ではドライバー不足が深刻なので、MaaSによる解決が、まさに急務となっているのです。
移動さえも効率化される未来
今回は、MaaSの紹介をしました。テクノロジーの発展により、いよいよ我々の移動すらも効率化できる未来がすぐそこに見えてきました。特に、自動運転車においては、移動中、どう過ごすかが既に課題となっており、エンタメや睡眠、食事、会議、仕事といったあらゆる分野で検討が進んでいます。
移動時間の節約で生み出した時間の有効活用により、仕事の生産性を高めたり、家族や友人とコミュニケーションや趣味に使える時間がが増えるとなれば、生かさない手はありません。そもそも移動をしない選択肢としての自宅勤務やテレワークなどの手段と並行して活用することで、ライフスタイルやワークスタイルの変革にもつながるのではないでしょうか。