【WWDC 15 参加レポート】一連のセッションを通じて感じたアップルの『本気』

2015/07/01
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Apple Musicの発表でネット界隈のニュースなどでも話題になったWWDC(Worldwide Developers Conference) 15。今年は2015年6月9日(現地時間6月8日)から5日間に渡りサンフランシスコ市内にあるモスコーンセンターにて開催されました。 「タブレット活用ブログ」を運営するインフォテリア株式会社からも3名の開発者が参加しました。今回は3名のうち、東京R&Dセンターのセンター長である田村氏にインタビューをおこないました。カンファレンスに実際に参加して感じたこと、そしてカンファレンスでの発表によるデバイスやアプリなどへの影響、そして本サイトのテーマでもある、「ビジネスでのモバイル活用」に与える影響などについて、語ってもらいました。

今年はちょっと控えめな感じ?現地の雰囲気について

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まず、今年の現地の雰囲気について教えていただけますか?

今回、私は初参加だったのですが、自分が想定していたよりはずっと「おとなしい」印象を受けました。例年WWDCは大いに盛り上がっているように日本では見えていたので、その部分は意外に感じました。インフォテリアからは毎年参加しているメンバーもいますが、やはり今年は例年よりも「おとなしい」ように感じたようです。今年はApple Music以外、事前に大きな噂がなかったことも影響しているかもしれません。また、参加者の80%近くが初参加、ということも理由のひとつかもしれません。
参加者のほとんどは開発者が中心だったようで、「One More Thing」で発表された「Apple Music」よりも「Swift 2」の発表のほうが盛り上がっていた様子はその象徴だったのではないでしょうか。メディアではセッションの最初にある「キーノート」ばかりにフォーカスがあたるので、どうしても「新サービス発表会」的な側面がフィーチャーされがちです。しかし、そもそもが「Developers Conference」なわけですから原点回帰、といったところでしょうか。

おもしろいエピソードとしては、行きのフライトで、機内の多くの人がApple Watchを着用していたことと、会場でApple以外のデバイスを利用していた人がほとんどいなかったこと。ここまでApple製品の利用率が高い空間ってあまりないですよね。そう思うと貴重な体験が出来ました。もちろん、自分もAppleのデバイスを利用している一人ではあったのですが(笑)
また、参加者のうち、日本人の比率が例年より少なく、代わりに中国人の姿が例年より多かったと昨年も参加したメンバーが言ってました。Meet Upも今年、初めて中国人向けのものが開催されたということで、Appleの対中国についてのスタンスがこういったところにも反映されているのかもしれません。

WWDC2015最大の山場!?Swift 2の発表とオープンソース化について

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Swift 2の発表についての所感を教えてください

私は普段、Javaをメインとした開発をおこなっていることもあり、Objective-Cでおこなう開発にはあまり前向きになれませんでした。単純に難しそうに見えたんですね。(笑)しかし、昨年Swiftが発表された時、その目指すところや設計思想について興味を持ちました。C言語などと同様のコンパイラ言語ながら、見た目のわかりやすさや実装のしやすさはRubyなどのスクリプト言語に近い、という双方のよいところを兼ね備えている印象で、ポジティブに受け取っています。 そして、今回のバージョン2.0のリリースとオープンソース化の発表でより多くの可能性が見えてきたように感じます。ライセンスの問題に起因する懸念などはあるものの、iOSやOS Xだけでなく、Linuxでの動作も約束するなど、これまでの一方的な囲い込み、というスタンスではないところからもAppleが変化してきているように私は受け取りました。
また、今回の一連のセッションでのプレゼンテーションの中でも、ほぼ全てSwiftのコードが使われていました。あと、参加者がもらえるジャケットのタグもSwiftのコードで書かれていたりとか。Objective-Cのコードは比較対象としてのみで、AppleのSwiftへのシフトチェンジが『本気』であることがそのような部分にも反映されているように感じました。

一方で、さまざまな言語が乱立する中でSwiftがどういったポジションを築いていくのか、こればかりは全く読めません。しかしながら、Objective-Cよりもコードの記述量が少ないことによる品質の向上といったメリットがあるため、切り替えはどんどん進んでいくのではないでしょうか。また、これまでのObjective-Cではコンパイラ言語であるがゆえの敷居の高さなどもありましたが、Swiftは先述のとおり、コンパイラ言語でありながらスクリプト言語に近い、という構造を持っているところからもRubyやPythonなどのエンジニアでも扱いやすいと思うので、これまでObjective-Cがゆえに開発に手を出さなかったエンジニアがiOS向けにアプリを作る、なんてことも出てくるように思いますね。

El CapitanとiOS9でタブレットの体験が変わる

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続いて今回のOS周辺のアップデートでモバイルデバイスに与える影響は?

まず、大きくまとめてしまいますが、今回の一連のアップデートについてのリリースはキャッチーな機能の追加などが少ないこともあり、地味なように受け取られている方も少なくないかもしれません。しかし、使い勝手につながるUI、UX関連のリリースが多く、そういったところからも今回Appleは話題性よりも「長く使ってもらえる」という実利を優先したように感じています。こういったところにもAppleの『本気』を感じてしまうのは私だけではないはずです。
たとえば、Multitaskingなんかはその最たる例と言えます。これまでタブレットでは複数アプリを同じ画面で並行して利用することはできませんでしたが、それができるようになると、ビジネスでのタブレット活用は大きく捗るのではないかと思います。今回同じく発表された、「Picture In Picture」で動画を再生しつつ、スライドを見せていく、といったことができるようになるのは地味ですが、大きな進歩です。クライアント向けのプレゼンテーションなどでのタブレット活用が今以上に促進されるのではないでしょうか。

そして、「Slide Over」や「Split View」などの機能はタブレットでの業務処理の効率を高めることになり、合わせて発表されていたソフトウエアキーボードの刷新も同様です。
これまで、都度アプリ画面を切り替えたり、コピペや参照もやりづらい、など使い勝手の部分に対する嫌悪感からタブレットではなくノートPCを利用する、という方も多かったと思います。しかし、今回の一連のリリースにより、フラストレーションが軽減されます。これはビジネスでタブレットを利用する、という視点ではとても大きな進歩だと思います。
ただし、チップ等の問題もあるためMultitaskingに対応するデバイスは限られているようで、Slide Over、Slide Viewともに現時点ではiPad Air 2のみの対応、ということなので、今後iPadを購入予定の方は頭に入れておくべきでしょう。

まとめ

世間では今回のWWDCは地味だった、というような評判が多いように感じられますが、開発者サイドからはまた別の視点で見えている、ということを改めて感じることができたのではないでしょうか。特に、Swift 2の発表は今後のモバイルデバイスに与える影響などを含め、エンジニアサイドでは大きな注目を集めていることが伝わってきました。
こういったカンファレンスにおける内容は、ビジネスでのモバイル活用を検討する際には一見あまり関係ないと思いがちですが「数年後にデバイスを取り巻く環境がどうなっているのか」というような発表をキャッチアップすることは、デバイス等への投資にあたっても重要な判断材料となり得ます。タブレット活用ブログでは今後もカンファレンス系などの特集もおこなっていきますのでどうぞご期待ください。

今回お話頂いた社員

reporter

田村 健氏
インフォテリア株式会社 東京R&Dセンター センター長
2000年インフォテリア入社。前職で携わったグループウェア、ナレッジマネジメントなどの製品を開発してきた知見をベースに、ソフトウェアエンジニアとして主力製品ASTERIAの開発に初期から参画。2006年からは開発責任者としてASTERIAシリーズの開発部隊を率いている。著書に「ASTERIA WARP基礎と実践」がある。

ASTERIA Developer Network -WWDC 2015 参加レポート
・インフォテリア株式会社
・ASTERIA
・ASTERIA WARP 基礎と実践

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