今さら聞けない新たな無線LAN規格「Wi-Fi6」とは
いよいよ2020年、各キャリアの5Gサービスがスタートします。そんな中、Wi-Fiの新規格「Wi-Fi6」の準備が、着々と進められていたことをご存知でしょうか。Wi-Fi6はIoT時代の新たな無線LAN規格で、5Gとの併用も念頭に置かれて設計されています。そこで今回は、Wi-Fi6がどんなものなのか、5Gとの違いなども含めご紹介しますので、ぜひこの機会に知っておきましょう。
Wi-Fi6とはどんなものなのか
皆さん、Wi-Fiはすでに利用されたこともあり、おなじみの技術だと思います。ところが、その後に数字がつく「Wi-Fi6」という名前は耳慣れない方もいらっしゃるかもしれません。まずはその数字の意味について解説します。
Wi-Fi6とは
「Wi-Fi6」とは2019年9月に、無線LANデバイスの普及促進を図る「Wi-Fiアライアンス」という団体によって発表された次世代の高速無線LAN規格です。なお、Wi-Fi6の正式名称は、「IEEE 802.11ax」です。
なぜWi-Fi6と呼ぶのか
Wi-Fi6の正式名称である「IEEE 802.11ax」は、もともとIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)という、日本語で米国電気電子学会と呼ばれる団体によって規定された規格がベースになっています。なお、過去にリリースされたWi-Fiの規格は、すべて「IEEE.802.11」とアルファベットの組み合わせで表現され、一般の方には非常に分かりづらかったという問題がありました。そこで、Wi-Fiアライアンスは、今回の規格「IEEE 802.11ax」が6世代目ということで、「Wi-Fi6」という名称で呼ぶことに決めたそうです。
なお、これに合わせてこれまでのWi-Fi規格も一部「Wi-Fi4」、「Wi-Fi5」という名称で呼ばれることになりました。
規格名 | 新名称 |
---|---|
IEEE 802.11a | なし |
IEEE 802.11b | なし |
IEEE 802.11g | なし |
IEEE 802.11n | Wi-Fi4 |
IEEE 802.11ac | Wi-Fi5 |
IEEE 802.11ax | Wi-Fi6 |
Wi-Fi6のメリット
それでは、Wi-Fi6になると、どんなことができるのか、5つの特徴を紹介します。
通信速度が高速化
Wi-Fi 6でのメリットとして最初に挙げられるのは、やはり通信速度の向上でしょう。あくまでも理論上の最大通信速度にはなりますが、Wi-Fi5が6.9Gbpsという通信速度に対して、Wi-Fi6は約1.4倍の9.6Gbpsになっています。また、実効スループット(理想的な通信環境におけるデータ転送量)の上限値も、Wi-Fi5の800Mbpsに対して、Wi-Fi6ではその1.2倍の1Gbpsになっていますので、かなり高速化したといえるでしょう。この通信速度であれば動画の再生やオンラインゲームなども、ストレスなくサクサク楽しむことが可能です。ビジネスでは、ストリーミング配信やオンラインセミナーの視聴、テレワーク時の多人数での会議など、高速な通信を必要とするシーンでもストレスなく、余裕をもって対応できます。
同時接続デバイス数の向上
Wi-Fi6には、「OFDMA(直交周波数分割多元接続)」という技術が採用されているため、一定の通信容量でトラフィック処理を実施する際、複数デバイスを同時にネットワーク通信することが可能になっています。
また、複数のアンテナを使い通信速度を高速化し、さらに複数の端末との同時通信を可能にする「MU-MIMO(Multi User Multiple-Input and Multiple-Output、マルチ・ユーザー・マイモ)」と呼ばれる技術も採用されており、Wi-Fi6では同時通信が可能なデバイス数がWi-Fi5の2倍、Wi−Fi4に比較して8倍と、飛躍的に増えています。したがって、混み合った通信環境においても、高速でつながりやすいWi-Fi環境が利用できます。
接続デバイスのバッテリーが長持ちする
Wi-Fi6には、「TWT(Target Wake Time)」というデバイス毎のデータ送信間隔を最適化することで、消費電力を抑える機能が採用されています。これにより、Wi-Fi6に接続したデバイスのバッテリー消費量を抑えることが可能です。本機能は、スリープ状態が多いIoT機器を想定して実装された機能といわれています。動いていないときのデバイスの電力消費量を抑えることで、長時間デバイスを使用することができるわけです。
電波干渉が起こりにくい
現在、Wi-Fiのアクセスポイントが乱立する都心部やマンションなどの集合住宅においては、同一チャネルの干渉が頻繁に発生しているため、つながりにくい状況になることがありました。そこで、Wi-Fi6にはMACフレーム(Ethernetで送信先のデバイス情報などを付加したデータ群)に、新たな「カラーコード」と呼ばれる情報が付加されるようになりました。この情報を参照することで、デバイス毎に通信中のアクセスポイントを区別できるようになったため、安定した接続環境が提供できるのです。
2.4GHz帯と5GHz帯の2種類の両方に対応
Wi-Fi6では、Wi-Fi4と同じように2.4GHzと5GHzの2つの周波数帯を利用可能です。これによりスループット(理論上、単位時間あたりに転送できるデータ量)が向上する効果が見込まれます。
Wi-Fi6を使う方法
Wi-Fi6を利用するためには、Wi-Fi6に対応したWi-Fiルーターおよび、通信デバイスが必要です。そのため、Wi-Fi6に対応した商品を新たに購入する必要があります。なお、Wi-Fi6に対応したルーターは多数販売されていますが、Wi-Fi6対応のデバイスとしてはGalaxy S10シリーズとGalaxy Note10+、そしてiPhone11シリーズなどから対応が始まり、2020年春以降に発売されるスマートフォンでは続々と対応が予定されています。(本記事が書かれたのは2020年3月)
また、従来のWi-Fiデバイスも、Wi-Fi6に対応したルーターでそのまま利用することができます。
Wi-Fi6と5Gの違い
Wi-Fiと5Gは混同されがちですので、その違いやユースケースについても簡単に説明しておきます。
5Gとは
「5G(ファイブジー)」とは、英語の「5th Generation」の略語で、日本語では「第5世代移動通信システム」と訳される、携帯電話やスマホに用いられる次世代通信規格のことです。5Gの特徴としては、まず「Massive MIMO」や「ビームフォーミング」という技術の採用により高速大容量通信が可能になった点です。現在の4Gに比べ約20倍の通信速度ということで、動画配信やオンラインゲームだけでなく在宅医療といった分野での活用が期待されています。
次に、「エッジコンピューティング」の活用により従来の1/10という低遅延を実現しており、遠隔医療や自動運転分野においても大いに活用されることでしょう。さらに、「グラント・フリー」という技術によって、同時接続デバイス数は10倍になりました。これにより、IoT機器を複数制御するスマートオフィス化、スマートホーム化が一気に進むものと予想されます。
Wi-Fi6と5Gのユースケース
ここまで紹介した通り、Wi-Fi6と5Gはよく似た特徴を持っています。そのため、「どちらか一方でよいのでは?」という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、Wi-Fi6と5Gは必要な帯域や遅延速度、経済性などを考慮しつつ、お互いを保管しながら利用されるのではないかと予想されています。
たとえば、5Gの登場によって、より大きなデータ転送が必要になるリッチコンテンツやサービスが登場すると思われますが、通信料金を考えるとすべて5Gで賄うわけにはいかないため、Wi-Fiを利用せざるを得なくなるでしょう。しかし、従来のWi-Fiのスペックではこうしたコンテンツやサービスを十分に楽しめない可能性が高く、それに見合ったスペックのWi-Fiが必要になるのです。そのため、Wi-Fi環境も5Gに匹敵するスペックのWi-Fi6を利用することが好ましい時代になると予想されます。
また、5Gを利用するためにはSIMが必要です。そのため、個人用のスマホやドローンといった単一デバイスであれば問題ありませんが、IoT機器や社内向けデバイスなど、多数のデバイスすべてにSIMを差すのは困難なため、この場合もWi-Fi6を利用することになるでしょう。
Wi-Fi6今後の展望
最後に、Wi-Fi6の今後の展望について紹介しておきます。
IoT社会には必須
Wi-Fi6が登場した背景には、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT機器の登場があります。また、スマートスピーカーをはじめ、各種IoT家電や照明器具、スマートロックに至るまで、すべてのデバイスにWi-Fiが必要です。恐らく、その数は将来的に数十、数百にもなることでしょう。従来のWi-Fiでは、このような多数のデバイスを制御しきれないため、Wi-Fi6が開発されました。今後、IoTがさらに普及し、インターネットに繋がるデバイスも莫大な数になると予想されるため、Wi-Fi6は必須になっていくでしょう。また、政府が励行する「ICT」や「AI」の発展や安定稼働にも、Wi-Fi6の安定した通信環境が必須です。
2020年以降加速していく
前述した通り、Wi-Fi6は5Gと相互補完し合うことでシナジーを発揮するため、5Gのサービスがスタートする2020年を皮切りに加速度的に普及していくことでしょう。5Gで便利になったサービスや商品を、安定的にいつでもどこでも使えるようにしようとする流れが起きるのは必然だと思われます。また、Wi-Fiアライアンスのリリースによると、2020年末を目指し16億台のWi-Fi6対応デバイスの出荷を見込んでいるそうで、Wi-Fi6に対応したWi-Fiルーターやスマホ、タブレット、PCなどが今後も続々と発売されていくでしょう。
新たな時代の幕開け
身近なところでは、スタジアムや空港、ターミナル駅や、都市部の公衆無線LANなどのアクセスが集中するところでは、誰しも、低速だったり、繋がりにくかった経験をお持ちでしょう。Wi-Fi6が普及すれば、こうした環境でも、快適なネット接続が行えるようになるでしょう。そして、日々、仕事をするオフィスなどでも、社員のデバイスだけでなく、IoT機器がこれまでよりも多数、ネットワークに接続されるようになります。こうしたデバイスを無理なく、安定したネットワーク環境で扱えるようになることが大きなメリットになります。
今回は、次世代の無線LAN規格であるWi-Fi6を紹介しました。高速大容量通信における複数デバイスの通信が可能になることで、これまで我々が体験したことがないようなサービスや商品がどんどん生まれてくることでしょう。