人々こそがモバイル!?HoloLensが切り拓くMRという未来

2017/10/11
HoloLensが切り拓くMRという未来

はじめに

マイクロソフトは10月17日に予定しているWindows10の大型アップデート「Fall Creators Update」にて、MR(Mixed Reality)をOSレベルで本格サポートすると発表しました。近年ARやVRが隆盛を誇っていますが、それらに続いてMRもいよいよ本格展開される様相を呈しています。

しかし、ここで忘れてはいけないのが同社のヘッドマウントディスプレイであるHoloLensです。発表されてから既に2年以上経ちますが、この斬新で革命的なデバイスが現在でもMRの未来を担う最先端であることに変わりはありません。今年になってAcerやDellなど各メーカーから続々とMRヘッドセットが発表されていますが、HoloLensはその中の一つではなく唯一無比の存在です。

この記事では、MRというのがどのような概念かということも整理したうえで、着実にビジネスへの活用が進んでいるHoloLensおよびMRの現在地と将来の可能性について、実機を使ってみたレポートを交えてまとめてみました。

1.HoloLensについて

自己完結型ホログラフィックコンピュータHoloLensは頭に装着するメガネ型のデバイスで、ユーザーの視界には現実の映像とCGがミックスされて表示され、まるで部屋の中に物を置くような感覚でアプリやホログラムを配置して、それを動かすことができます。

OSはWindows10を搭載し、使用にあたって他のコンピューターや外部センサー、コントローラーといったデバイスを必要とせず、HoloLens単体だけで動作することが大きな特徴です。小さなボディの中に本体もディスプレイも、センサーもカメラもすべて内蔵しているのです。

HoloLensが発表されたのは2015年の1月ですが、米国で出荷が開始されたのが2016年の3月で、日本国内で発売されたのは今年(2017年)の1月でした。価格は約30万円、購入できるのは法人および開発者限定で、未だにコンシューマー向けには発売されていません。現状はゲームやエンターテイメントの分野よりも、BtoB、仕事の現場で活用が進められているデバイスです。

2.VR、AR、MRのちがい

VRやARという単語はすっかりポピュラーになりましたが、MRとは一体どういう概念なのでしょうか? VR、AR、MR それぞれの性質と違いを改めて整理していきましょう。

VR = Virtual Reality(仮想現実) ……バーチャルの世界に没入すること

VRヘッドセットやVRゴーグルを装着すると、人間は360度バーチャルの世界に取り囲まれ、非現実がまるで現実のように体感されます。このように、バーチャルの世界に没入し、体験する、という性質を持つのがVRです。

AR=Augmented Reality(拡張現実) ……現実の世界にデジタル情報を付与すること

VRは非現実世界に入りこみますが、対してARでは現実の世界がメインになります。GPS位置情報やARマーカーを使って、現実世界にデジタル情報を配置して付与するというのがARです。

MR=Mixed Reality(複合現実)……現実とバーチャルを融合させた空間を創造すること

MRとは、現実世界を認識・把握したうえで、それにバーチャル(3DCGの情報)を重ね、融合させた空間を創造するという概念です。VRと現実の融合ともいえるでしょう。

ARとMRの違いが分かりにくいかもしれませんが、ARはカメラで認識した画像やGPSから取得された緯度経度の数値から、現実を認識します。そこに奥行きの情報は持っておらず、平面としての現実を基準にしています。一方、MRは空間を基準として周囲を認識するので、ARと違い、奥行きや高さなど立体的な情報を持っています。

MRはARの概念に近いものの、ARを凌駕し、現実ともバーチャルとも違う新たな世界を3次元空間で提供することができるのです。

3.HoloLensを体験してみて:使いやすさは抜群だが視野角が狭いのが難

HoloLensを装着し、部屋をきょろきょろと見渡してみると、システムが空間を把握していく様子がよく分かります。HoloLensが赤外線を周囲に照射し、複数のセンサーが反射光の戻る時間を測定して空間を認識しているとのことです。SF映画でよく見るような、蛍光緑色の測量線メッシュが見慣れた室内に浮かび上がり段差や高低差を測っています。

HoloLensは一度認識した空間の構造を記憶でき、デバイスの電源を一度切っても、別の場所に行って戻ってきても、自分がプレースしたアプリやホログラムはそこに残っています。

逆に、初めて行く空間への移動が多い作業では、HoloLensが空間を認識してホログラムを配置するまでのステップと時間(1分程度)がかかるので、GPS、マーカーを利用したARソリューションの方が便利かもしれないと思いました。また、赤外線が届きにくい屋外や、障害物が少なく広すぎる空間でも使いにくいようです。

ハードのデザインと装着性は優れており、申し分ありません。特に既存のVRゴーグルと違い、とりわけ単体で動作するメリットは素晴らしく、わずらわしいケーブルからも解放され、取り回しの良さは抜群です。

独特の指先ジェスチャーの動きは数分で慣れましたが、アプリを空間に配置し、配置したアプリを操作する距離感を掴むのがやや難しかったです。特に大きさの調整、遠近感の調整は慣れるまで時間がかかりました。

デメリットを感じたのが、やはり誰もが指摘するように、視野が狭いことでしょうか。視野角40度未満であり、100度程度の既存VRデバイスと較べると明らかに狭く、ふだん仕事をしているデスクの視野の感覚で複数アプリを同時参照しての作業に関しては違和感があり、不便でした。

マイクロソフトによるとこの視野の狭さは「意図的」であり、視野角よりも画質の鮮明さを優先した結果としていますが、視野角を60度以上にする特許を出願するなど、マイクロソフトも対策を進めている最中のようです。

4.続々と登場するMRデバイス

マイクロソフトは現在、様々な企業と連携してWindows MRヘッドセットの開発を進めており、今年に入ってからWindows MRヘッドセットが各メーカー(※)から次々に発売されました。どれも即完売になるほどの人気を集めています。コンシューマー向けで、いずれもHoloLensより大幅に安価ですが、残念ながら今のところこれらはHoloLensと似て非なるデバイスです。

根本的な違いは、次の二点です。

  • ・HoloLensがシースルーで現実世界も見えるレンズなのに対し、サードパーティー製のMRヘッドセットは(現状)VRゴーグルのように完全没入型であり、現実世界は可視できないこと。
  • ・HoloLensはスタンドアロンで動作するのに対し、サードパーティー製のデバイスはPCにケーブルで接続して動作するタイプであること。

マイクロソフトは将来的にはこれらのデバイス(HoloLensをholographic devicesと呼ぶのに対し、immersive devicesと呼んでいます)でもMR対応することを示唆していますが、現時点ではVRコンテンツのみが配信されており、実質はVRゴーグルといえます。MRの醍醐味やHoloLensの操作性を味わうことはできません。

※2017年度に入って、Asus、日本エイサー、Dell 、HP、SamsungなどからWindows MRヘッドセットが発表されている

5.業務利用と今後の展望

現時点でオフィシャルリリースされている日本国内でのHoloLensの業務利用事例は以下の2例です。

*JAL→HoloLensを整備士と乗組員の訓練に活用している

http://press.jal.co.jp/ja/release/201604/002643.html?Fa=1

*小柳建設→土木/建築工事におけるトレーサビリティの実現

https://www.microsoft.com/ja-jp/casestudies/n-oyanagi2.aspx

海外での活用例をみても、医療や飛行機、自動車整備など、実機を使った訓練が難しい作業での「教育・トレーニング」、製造業や建築・建設業など「空間を扱うビジネス」での利用、または自動車の開発過程等「工業デザイン」で、今後も当面これらの分野から活用が進んでいくのではないだろうかと思われます。

実際に模型を作らなくてもホログラムで立体のモックアップを映し出し、更にそれを現実の世界に重ねて配置できるということは、業務の効率化とコスト削減を大いに実現するでしょう。

住宅販売会社で、施工前の空間に対しHoloLensで家具の配置やリフォーム後のイメージを可視化するといった使い方も有効ではないでしょうか。また、将来的には防災訓練にも活用できるのではないかと筆者は期待します。河川が氾濫したときの浸水度合や地震で物が壊れた状態をHoloLensで映し出し、シミュレーションするなどです。

6.まとめ:HoloLensが変える未来

今回HoloLensを始めて触ってみて、筆者の素直な感想としては「iPhoneに初めて触った時以来」の興奮、面白さ、期待感を味わえたということです。単なる便利なデバイスというレベルではなく、いずれはかつてiPhoneがそうだったように、私たちのライフスタイル、ワークスタイルに影響を及ぼし、未来を変えていくことでしょう。

マイクロソフト HoloLens公式サイトにはHoloLensの開発者である(天才技術者)Alex Kipmanの言葉で”People, not devices, are mobile”とあり、訳すと「デバイスではなく、人々こそがモバイルなのです」となります。これは哲学的な表現であり、パラダイムシフトを大いに予感させるものです。

このフレーズを心の片隅におきながらHoloLensを装着し、実際に視線がマウスカーソルになり、ジェスチャーやボイスでアプリを実行する世界を体験してみると、まさに「自分がモバイルになった」ことが実感できたように思えました。

HoloLensがもたらす、バーチャルとブレンドされたリノベーションされた世界は、まだまだ未開拓であり、多くのビジネスチャンスも眠っているでしょう。HoloLensのデバイス自体も現状の完成度が高いものの、まだまだ進化の余地があり、これからのアップデートが楽しみです。

HoloLensが切り拓くMRの可能性と新たなビジネスの創造に大いに期待したいところです。

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