iOS9へのアップデートでビジネスモバイルシーンが変わる!?「良い体験を。」に込めたAppleの意図を考察する
2015年6月9日、Apple Musicに世間のメディアなどの関心が向かう中、話題としては大きくならなかったiOS9へのアップデート。先日の記事でもお伝えしたように、UI/UX周辺のアップデート、ブラッシュアップが中心で話題性のある新機能には乏しい発表となりました。しかしながら、これらのアップデートはビジネスにおいてタブレット利用をおこなっている方々にとっては大きく注目すべき内容かもしれません。今回はビジネスでのモバイル活用という視点からiOSのアップデートについて考察をおこないます。
マルチタスクを可能にする3つのリリース
Slide Over、Split View、Picture in Picture
今回のアップデートにおいてUI/UX周辺で注目されたのがSlide OverとSplit View、そしてPicture in Pictureのリリースです。それぞれ、動作や概念も若干異なるところはありますが、端的にまとめると、「アプリを複数立ち上げ並行しての作業がやりやすくなった」ということです。それぞれの機能について簡単に説明していきましょう。
Slide Overとは?
Slide Overが実装されることにより、立ち上げているアプリの上にメモ帳などの別アプリを立ち上げ、閲覧をすることが可能となります。
たとえば、ブラウザでウェブサイトを閲覧しながらカレンダーの予定などを参照したい場合、これまでは一度アプリ切り替え画面を経由する必要がありました。しかし、Slide Overが実装されることでそのような必要がなくなり、右側からスライドして表示されるアプリにアクセスし情報を確認、という手順で作業が完了します。
また、スライドでアプリが覆いかぶさった側の画面も若干グレーアウトするものの参照はできるので、自分の確認したい情報がウェブサイトのどこに位置するかにはよりますが、参照してメモする、といったことも可能です。
なお、プレビュー版のiOS9上にてブラウザ側で動画を閲覧しながらSlide Overするとどうなるかを検証したところ、動画は一時停止状態となりました。Slide Overでは動画を見つつ、といったことは対応できないようです。
Split Viewとは?
次に紹介するSplit ViewはSlide Over以上に便利な体験をユーザに与えてくれそうです。Slide Overは基本的に、立ち上げているアプリの上にアプリを載せて参照できる、ということにとどまります。そのため、先述したとおり、かぶさっている側の画面はグレーアウトの状態となり、再生していた動画も一時停止状態となります。
しかし、Split Viewは両方のアプリを並行して利用することができるようになるため、Split Overのような状態にはなりません。そのため、たとえばブラウザで何かしらの情報を参照しながらチャットをする、というようなことができるようになります。また、辞書アプリを立ち上げつつウェブサイトを閲覧したり、動画を見ながらチャットアプリでコミュニケーション、といったことがスムーズにできるようになりそうです。
並行してアプリが利用できるということ自体はPCなどでユーザにとっては当たり前であるがゆえに、世間でのインパクトはあまり大きくありません。しかし、日常使用する中での使用感が大きく向上することは、ビジネスシーンでも恩恵に与るケースは少なくないはずです。
Picture in Pictureとは?
最後にPicture in Pictureですが、これは動画が小窓化して閲覧できる、と考えるとわかりやすいかと思います。現在、Youtubeのアプリでは再生中の動画を下方向にスワイプすると、ホーム画面が表示され、再生中の動画は画面サイズが小さくなって右下に配置されるようになっていますが、こうした動きと同じようなことが可能となります。
この機能でも先のSlide Over、Slide Viewのようなことが可能になるだけでなく、画面を小さくしておくことで、動画を再生して放置しながら気になったら画面サイズを大きくしてみる、というようなことができます。たとえば会議中継などを流しっぱなしにしておいて気になったタイミングで画面サイズを拡大する、といった行動が想定できます。タブレットでのテレビ会議では難しかった、しっかりとドキュメントを見ながら会議も進めていく、ということが容易になりそうです。
今回のアップデートがビジネスシーンに与える影響について
UI/UXを改善する3つのリリースについてまとめてきましたが、これらの改善は言葉先行がちだった「マルチタスク」を本格化するアップデートと言えます。これまで、iPadはどうしてもその使い勝手からビジネス用途では閲覧もしくは簡単な入力で済むような作業以外は敬遠されがちでした。
しかし、AppleのiOS9のプレビューサイトでも「iPadですることが、2倍はかどります。」と伝えているように、マルチタスク対応で可能になる作業範囲の拡大と利便性の向上はビジネスシーンに大きなメリットをもたらすのではないでしょうか。そして、マルチタスクで威力を発揮するような機能を兼ね備えたアプリも今後登場してくるものと思われます。
ほかにも、UI/UX関連ではソフトウェアキーボードのアップデートもあり、操作感の向上によるフラストレーションの軽減も歓迎すべきポイントです。
また、アプリ関連ではニュースアプリの新規ローンチとメモアプリ、地図アプリ、そしてパーソナルアシスタント「Siri」のアップデートも控えています。これらはSiriをのぞき、既に一定のシェアを有しているアプリが存在しているカテゴリでもあるため、ユーザの状況により判断は分かれることにはなりますが、内臓アプリゆえの連携のしやすさなども十分に考えられるため、大化けする可能性も否定できません。
ビジネスシーンの場合、有料アプリは会社側が禁止しているケースもあるため、無料の内臓アプリが進化することを好意的に受け止めるビジネスユーザは少なくないのではないでしょうか。
まとめ
今回のアップデートについて、Appleのウェブサイトでは4つのポイントを挙げています。「内臓アプリケーション」、「iPadの体験」、「インテリジェンス」、「基盤」、そしてそれらを統合するキャッチフレーズとして、「どこに触れても、より良い体験を。」としています。
これらに込められたメッセージは、「すべてが良い体験」を通じた顧客満足度の向上というのは言わずもがなですが、それだけではなく、まもなくリリースが迫るWindows 10を機に反撃を仕掛けんとしているMicrosoftへの牽制と受け取るのは憶測が過ぎる、というものでしょうか。
Microsoftは今回のリリースで「Windows As A Service」と掲げ、これまでとは異なる方向へ舵を切ることを高らかに宣言しました。そして、それは今回のAppleと同様、OSだけでなく、その上に乗るアプリ、そしてデバイスも含めた一体としての体験を追求するものです。
今後、モバイルの世界はこれから普及が広がっていくウェアラブルデバイスやIoT的な機器などとの連携をユーザがどれだけストレスなくシームレスにできるか、がひとつのカギになります。それは個人としての体験だけでなく、ビジネスにもあてはまる流れです。
参考:「製品」から「サービス」へ Windows10はマイクロソフト社の決意の表れ!?
今回、両巨人がユーザに提示した内容こそ全く別物ではあるものの、ユーザ体験をより強く意識して強化していく、という点では一致しています。Windows 10のリリースも合わせ、今年はモバイルの世界にとって後から振り返って大きなターニングポイントとなるかもしれません。