製造業におけるモバイル端末活用の例
今回は、製造業といわれる企業で比較的共通して見られる、典型的なモバイル端末の活用について、設計と製造に分けて説明します。併せて製造業での活用事例も紹介します。
設計開発
設計現場の中には機密情報があふれています。よって、USBなどの外部メディアの接続を禁止し、個人のスマートフォンや携帯電話を居室に持ち込めないことも多いです。情報共有においてはとにかく、セキュアであることが求められます。
国内の製造業だと、クラウドサービスやクラウドサーバの利用については、今も比較的懐疑的な傾向だといわれます。クラウドにデータを置くことが前提となるモバイル端末の活用も、決して積極的とはいえない現状といえます。クラウドのセキュリティに関して少しの誤解や、これまでの経験や慣習からの思い込みなどが関係しているようです。近年は3D CADのメジャーなブランドでクラウド対応が積極的に見られるようになってきたので、今後はこの状況が少しずつ変わってくるでしょう。
比較的よく聞こえてくる設計関連の例としては、出張先でのタブレット端末活用の例があります。3Dデータを管理するシステム側で外部端末からアクセスする情報の制限ができます。
例えば、顧客に設計中のデータをタブレット端末の3Dビューワで見せて、その場で早期の問題洗い出しをして設計側へ情報をすぐフィードバックし、後工程での手戻りを減らすといった活用法があります。3Dデータで設計の概要や進捗が見られるということは、技術者以外の人にとってはありがたいことです。機械設計者以外では、機械図面を読めない人は多いです。機械図面や仕様書だけである場合と、設計物の3Dデータがある場合とでは、理解しやすさは断然異なります。現場での打ち合わせだと、机やイスがなくてパソコンを使えるスペースがないような場合もあります。そんな時はタブレット端末が最適です。
近年では3D CADの3Dデータを利用してVR(仮想現実)やAR(拡張現実)のコンテンツを作成し、タブレット端末で活用できる仕組みも登場しています。
製造現場
従来、作業マニュアルは設計がある程度完了した3D CADの設計データを基に線画データを吐き出して、それを修正して、資料に張り付けて制作していました。さらに古い時代では、イラストレーターが機器のテクニカルイラストを描き起こしていました。今では、3Dの設計データを直接持ってきて、デジタルの作業マニュアルに使う仕組みが登場しています。
生産中や準備中に、改修による設計変更があれば、作業マニュアルの新しい版に差し替えなくてはなりません。紙のマニュアルの場合は全て回収して差し替えます。そうすると、差し替え忘れたマニュアルがうっかり現場に残ってしまう恐れもあります。また、そもそもマニュアルに反映し漏れた情報が発覚することがあり、時間がないあまり、その場で作業者に赤で修正してもらうといった事態が起こってしまうこともあります。
設計状況がリアルタイムに反映されているデジタルマニュアルをモバイル端末で確認できれば、改修時のマニュアル差し替えで現場がバタバタすることもありません。また作業中に分かった作業性の問題などもすぐに設計側にフィードバックすることが可能になります。また、デジタルマニュアルであれば、たくさんの図面や作業指示書を持ち歩いたりしなくてすむ利点もあります。
デジタルマニュアルの仕組みそのものもどんどん進化していて、部品の3D形状をくるくる回しながら見られたり、アニメーションで分解図や作業工程が見られたりする仕組みも登場しています。作業手順がより分かりやすくなり、作業者の理解度もアップします。
作業の進捗などの管理もタブレット端末で行えます。作業者がタブレット端末からラインのリーダーに状況を報告することが可能になります。リーダー側は作業者と個別に話したり日誌を書かせたりしなくても状況がすぐに確認できます。
製造現場は水や油を扱ったり、埃が舞っていたりします。通常のタブレット端末を持ち込んでは故障してしまう恐れもあります。またタブレット端末は、作業中にうっかり手を滑らせて落とす可能性もあります。そのようなニーズを考慮して、防塵(じん)・防滴性能を保証し、堅牢性を高めた機種も登場しています。
実際の製造業における活用事例
あの「ホッチキス」で有名で、アステリアの顧客でもあるマックス株式会社は、同社の中国蘇州工場における組付指示書の管理および閲覧をデジタル化し、「Handbook」とデータ連携ミドルウェア「ASTERIA Warp」で指示書の共有を自動化しています。本社で作成される指示書は、毎朝、自動的に中国の工場へ最新の指示書が配信される仕組みを実現し、いつでも最新の指示書にアクセスできるようになりました。現場にある指示書の数は1000を超えていたといいます。かつては検査や技術者教育のたびにA3のファイルを持ち歩かなければいけませんでした。おびただしい数の紙資料の管理の手間や、重いファイルから解放され、かつ現場にタイムリーで正確な情報が届けられるようになりました。
マックス、顧客の信頼を高め、海外工場への指示書共有を自動化。品質保証レベルを向上
他、金型メーカーで、タブレット端末に3D CADの設計データや生産管理情報を表示できるようにし、生産現場の担当者が簡単に閲覧できるようにした事例があります。2次元の図面を参照せずとも3Dデータから寸法などが確認できます。タブレット端末は、パソコンやITが苦手な人でも簡単に使えることが利点です。作業現場でもデジタルデータの活用が進んだことで、作業の合理化や効率化が進んだといいます(関連リンク:[ツバメックス]ITアレルギーを払拭、ベテラン職人も活用)。
製造業向けに堅牢性が高いタブレット端末を開発しているメーカー自身が、生産現場で自社のタブレット端末を実際に活用している事例があります。もともとは紙の資料が使われていた、生産管理、作業指示書、メンテナンスマニュアルなどをデジタル化し、タブレット端末から管理できるようにしています。従来は、PHSでの連絡や紙資料やノートのやり取りで管理を行っていた作業が、タブレット端末1つで行えるようになったということです(関連リンク:パナソニックの堅牢タブレット「タフパッド」は「タフパッド」で作られる?(MONOist)。このような情報共有関連の効率化の他、紙ベースの情報ではいまいち伝わりづらかった作業の情報も伝わりやすくなります。
このように、製造業でのモバイル端末活用は広がりつつあります。現場や用途に合わせて上手に活用していきたいですね。
効果的なタブレット活用方法をご紹介
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