ペーパーレス化は実現可能か?
PCが身近な存在となってからの40年を超える歴史の中で、いつの時代もペーパーレスの実現について語られてきました。しかし、フィンランドのFoex社の予測によると、テクノロジーの発展がこれだけ進んだ今日でも、世界の紙市場は年間4億トン(2012年)にも上るという報告があります。ペーパーレスは、実現可能な課題なのでしょうか?
今回は、事例などを見ながら、この問題について考えていきます。
イギリスのNHSは2015を目標にペーパーレス化を試みるが障害も
NHSとは、イギリスの国民保険サービス(National Health Service)のことで、イギリスの国民医療サービス事業をさします。患者の医療ニーズに対して、公平なサービスを提供することを目的に1948年に設立され、現在も運営されています。利用者の健康リスクや経済的な支払い能力にかかわらず利用が可能で、そのほとんどが無料です。
イギリスが福祉国家といわれるゆえんですが、不況下の現在、予算削減が迫られています。
そのNHSがペーパーレス化の第一歩として、まずは2015年を目標に、個人のヘルスレコードへのオンラインアクセスを可能にすると発表しました。2018年には、すべての重要な情報にスタッフが容易にアクセスできるようになるとのこと。これにより44億ポンド(7040億円)の経費削減につながります。
予算削減の他にもペーパーレス化のメリットはあります。例えば、オンライン化することで、専門分野の違う科で、1人の患者の情報を安全に共有することを可能にします。また、患者の個人情報管理から処方箋の発行までオンライン化することでスタッフの業務軽減につながり、煩雑な事務作業に費やしていた時間を患者のために使えるようになります。
労働党のジェイミー・リード氏は、それに対し、A&E(Accident and Emergency)といった、スタッフ不足で患者が何時間も待たされる部署の改善のほうが緊急を要するといったコメントを発表しました。さらに、NHSは、IT化において、レントゲンやスキャンデータなどのオンライン化は比較適容易に軌道に乗せることを可能にしましたが、
個人データの取り扱いにおいて守秘義務など契約上の論争があり、難航しているとうい実情を抱えています。
ペーパーレス化が難航する理由
マイクロソフトは、多くの保険会社や政府機関のために、最大95%のペーパーレスを目標にビジネスを展開していますが、まだ結果が出るには至っていません。ペーパーレス化を妨げる大きな要因は、「とりあえず」、「念のため」といった保存目的でプリントアウトされバインダーにファイルされた日の目を見ることがない多くのドキュメントと、紙で保存することをやめられない業務スタイルがあげられます。
しかし、ペーパーレス化が経費削減に結び付くということは、これまでに多くの企業が実証済みです。例えば、イスリングトン(ロンドン)の自治体では、紙のインボイスを廃止し、電子データとして管理することにしました。その結果、ペーパーレス化に伴う事務作業の軽減も含め、年間20万ポンド(約3,200万円)の経費削減に成功しています。
この自治体の事例からもわかるように、実現すれば確実に効果があげられるペーパーレス化ですが、まだ、「紙の方が安心」と思い込んでいる人々もいるようです。例えば、未だに、「紙で保存するほうが、ハードディスクやDVDといったメモリーディスクに保存するよりも安全だ」という声もあります。膨大な紙の書類を処分するのは大変な作業ですが、メモリーディスクを壊すのは一瞬だからといった理由からです。保存媒体としての信頼性は、一部ではまだ紙のほうが高く評価されているといったことが伺えます。
まとめ
電子書籍のキンドル等が普及した今でも、やはり本は紙で読みたいといった人が大半を占めます。ビジネスにおいても、在庫管理などオンラインで行うほうが便利なもののペーパレス化は比較的容易ですが、契約書など重要な書類のすべてペーパーレス化はテクノロジーの進化とは比例せず困難を極めます。
ペーパーレスを実現するためには、技術面だけでなく意識改革が大きな課題です。エコロジーの観点からもペーパーレス化は今までもこれからも避けては通れない課題です。完全なペーパーレス化の実現は困難でも、紙を減らすシステムの導入や、不要なドキュメントは印刷しないといった努力が、ペーパーレス化へとつながるでしょう。
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